インタビュー

【サッカー人インタビュー】シリア代表元コーチ屋良 充紀さん サッカーが持つ可能性とは

2017年10月10日、FIFAワールドカップ・ロシア大会に向けたアジア予選の第5代表決定プレーオフでシリア代表はオーストラリア代表に惜敗。史上初のワールドカップ出場の夢は潰えた。
しかし、2011年から今日に至るまで約50万人の犠牲者を出した内戦の最中、国民に希望の光を照らした代表チームは大きな功績を挙げたと言えるだろう。
遡ることおよそ8年、整備されていなかったシリア代表の育成年代強化に尽力した日本人がいる。元シリアA代表コーチ屋良充紀さんだ。シリア滞在時に作成したアラビア語でのサッカー指導指針はアラブ圏はもちろんのこと、海を越えてアフリカ・スーダンでも高い評価を得ている。

異国の地で感じた”サッカーの力”を存分に語っていただいた。


屋良 充紀 / Mitsutoshi Yara
現役時代はブラジル、エクアドル、コロンビアでプレー、横浜FC泉Jrユース監督やSFA(シリアサッカー協会)フットボールアカデミーヘッドコーチ。シリア代表コーチも歴任。シリア滞在時に作成したアラビア語でのサッカー指導指針はアラブ圏は、もちろんのこと海を越えてアフリカ・スーダンでも高い評価を得ている。また、横浜市でブラジルのストリートサッカーをヒントに遊び心をくすぐるサッカースクール、『エスコリーニャFC』の代表でもある。

シリアのユース年代はワールドクラス

Q.現役引退後、シリアで指導されるようになった経緯を教えてください。

現役引退後はJリーグの下部組織でコーチを務めながら、サッカースクールの運営をしていました。子どもたちと接する中で、南米で長い間プレーした経験をもっと誰かのために活かしたいという思いを抱くようになって。JFAアジア貢献事業に応募しました。そして、日本サッカー協会から依頼されたのが中東シリアの「ユースの育成」と「指導者の育成」の2点でした。

Q.現地での主な活動内容について聞かせてください。

まずはシリアのユースの現状を把握したかったので、シリアのプロリーグ全16クラブ(当時)の育成環境を視察しました。そこでわかったことが、シリアのユース年代は世界的にも強い部類に入るということです(※)。農村地域でも非常にサッカー熱は高く、想像以上に環境が充実していました。農村部よりも首都ダマスカスの方がサッカーをプレーできる環境が少なかったことが印象的でした。

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(※2007年FIFAU-17ワールドカップでシリア代表は決勝トーナメント進出。日本代表よりも好成績を残している。)

Q.なるほど。その調査がSFAフットボールアカデミー設立(シリア初のU-12世代の育成機関)に繋がったのですね。

はい。フットボールアカデミーは首都ダマスカスでセレクションを開催しました。600名もの応募が殺到して、選抜するのはとても大変でしたね。

600名もの子供たちが僕のところに集まってきて、なぜか”オーバーヘッドキック”を見せてくるんです。疑問に思って、後日通訳さんに聞いてみたら漫画『キャプテン翼』の影響で「日本人はオーバーヘッドを見せれば合格させてくれる」という噂が流れていたようです(笑)

Q.キャプテン翼はシリアでも有名なのですね。

とても有名です。シリアでも漫画はとても人気ですし、国全体として娯楽は充実していましたね。多くの日本人はシリアにあまり良いイメージがないかもしれませんが、以前はとても平和で生活しやすい国だったんです。

Q.シリアの子供たちにとってサッカーとはどのような存在だったのでしょうか?

私の体感ですが、プロサッカー選手が”なりたい職業NO.1”だったと思います。シリアではサッカー選手の地位がとても高かったです。リーグのレベルも高く、給料も高かった。キャプテン翼の影響ももちろんありますし、テレビ放送もかなり充実していて、スペインリーグなど毎試合無料で放送していたことも要因だと思います。

Q.中東シリアでの暮らしは不自由はなかったのでしょうか?

シリアサッカー協会に首都ダマスカスの高級マンションを用意してもらったので、全く持って快適でした(笑)

自分が暮らすマンションの下にゴザを引いた路面店の古本屋さんができたんです。「マンションの前に古本屋なんて珍しいな」てずっと思っていたんです。するとある日、自宅前でタクシーを探していたら、その古本屋でいつも座っていたおじいさんがタクシー呼んできてくれて。通訳に「親切なおじいさんだね」と言ったら、「彼は秘密警察だよ」って言われて(笑)私は知らない間に国の重要人物として警護が付いていたようです。

でも、現地の人にとっては「秘密警察」の存在はバレバレで”秘密”になってないんです(笑)なんともシリアらしいエピソードです。

内戦の兆候

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Q.その平和であったシリアも今では内戦状態となってしまいました。屋良さんの在任中に”アラブの春”の兆候は感じられたのでしょうか?

いえ。全くその雰囲気は感じませんでした。カダフィ氏の処刑後「もしかしたら、貧しい人たちが生活環境の改善を求めるかもしれない」との声もあったと後から聞きましたが、滞在中は全く気付きませんでしたね。

当時のダマスカスには多くの高級車が走っていましたし、先ほどお話しした農村部の調査の際にも、貧しい地域は見ませんでしたね。だからこそ、内戦状態になったときは本当に驚きました。

Q.現在はサッカーをできる環境にないのでしょうか?

内戦の中でもプロリーグは続いています。大幅にチーム数は減ってしまいましたが、4チームでリーグ戦を開催しているようです。

代表チームはシリア国内では試合を行えないので、中立地で行っています。躍進を見せているシリア代表ですが、現在の代表には体制派の選手が大半を占めているので、批判の声も挙がっているのが現状です。”国”の代表として実力どおりに選出されているかと言われると…答えるのが難しいですね。

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