河津 亨 / Toru Kawatsu
1969年生まれ。Jリーグ“鹿島アントラーズ”サポーター集団「IN.FIGHT」を創設し、リーダーとして活躍。アントラーズをこよなく愛する応援に熱い男。
現在はゴール裏の第一線からは離れ「IN.FIGHT代表」の傍ら鹿嶋市議会議員を務める。なお、鹿島アントラーズはJリーグクラブで最多タイトル数を誇る、強豪チーム。
音楽の世界からサッカーへ
Q.鹿島アントラーズ応援団“IN.FIGHT”の代表になったキッカケを教えてください
Jリーグが始まって20年くらいかな。まださ、君たちのお父さんとお母さんが出会ったころだね。
Jリーグって、始まってからはJリーグブームになったけど、Jリーグが出来上がった頃は、まだ日本のサッカーって本当に一部のマニアの人たちが見るようなもので、そんなに盛り上がってなかった。だから、Jリーグなんてものが始まるけど周りの人たちは「どんなんだよ」みたいな感じで、全然盛り上がってなかった。
特に鹿島っていうのは、もともとサッカーを応援していた地域でもなんでもなかったから、アントラーズが出来るってことに関しても別に誰も何の関心もなかったの。
それで、ちょうどその時に俺なんか結構年も若かったんで、選手たちと最初の同年代だったこともあって、よそから来た選手たちにとっては何にもない田舎だからさ、この街で何していいのかもわかんないだろうから、じゃあ俺が応援してやるよって、作り始めた。
Q.河津さん自身はもともとサッカーをやられていたり、興味があったりしたのですか?
ううん。違う。サッカーはやったことなかった。
もともとその応援団みたいなイメージがあったときに俺はずっと音楽をやっていて、興味があったのはジャンルでいうと“パンクロック”なのね。で、ずっとそれをやっていて、イギリスの文化として音楽を考えたときに、ミュージシャンと向こう(イギリス)のサッカーサポーターって、結構文化がリンクするのね。
例えば、俺の好きなアーティストの取材で「趣味は?」って聞いたら、「サッカー教室」「スタジアムに行って騒いでるのが好きだ」みたいな記事があるんだよね。
音楽がそういう文化と一緒にはいってくるから、向こうのサッカーの応援の映像なんか見ると、ものすごいかっこいいわけよ。本当に若いやつらがロックのイメージで、かっこいいことしてる。って。
でも日本ってさ、“ドンドンドン”ってさ、まったく異質なものじゃん?
でも、こういった形で本当に「向こうの文化をスタジアムで表現できるんだったら、応援やろう!かっこいい!」って。パンクロックっていうか、イギリスの音楽に影響されたのと、サポーターのかっこよさも伝わってきたから。それがキッカケかな。

“らしさ”の追求
Q.応援を一から作りあげる時に考えたこと・気をつけたことは何ですか?
それは、最初の頃にはものすごい色々研究して、世界中の応援を色々かき集めて、とにかく分析したり、海外を見に行ったりもしてきたけど、このチームはブラジル色が濃かったのよ。“ブラジル人を盛り上げるためにはブラジル的な応援が”っていうところで、当初はサンバを取り入れたりしてみたけど、日本人にはどうも合わないんだよね。やっぱり向こうの陽気な血で騒いでるようなものは、日本人の応援には合わない。かといって、ヨーロッパ的なのをやるのって、どうしてもモノマネに近いようなもので。だったら、やっぱり日本人として、「どういう応援が一番かっこいいんだろう?」っていうところを追求していくほうがいいんだと。だから、逆に向こうの文化に憧れてサポーター取り入れたけど、サポーターを文化として考えたら、日本らしさとか鹿島らしさをだすことのほうが、すげえかっこいいんだっていう風に思い始めて、そっちを追いかけていったんだ。
Q.海外と比べて日本であったり鹿島であったりの応援の特徴はどういったところですか?
それはね、日本人もそんなにさ、ものすごい騒ぐってわけではないわけよ。陽気にずっと歌っていることも無理だし。だから、“メリハリでいいよ”と。みんなゲームが見たいんだったら、日本人はどうせ見たいわけだから、“見る時間多くしてもいいよ”と。
あとは、応援の種類だよね。なんでもマネをするんじゃなくて、自分たちで、どういう歌が合うのかとか、どういう意味があるのかみたいな。考えてみて歌ってるほうがいいよっていうこととかね。
あと、応援っていうのはひとつひとつ具体的なものではなくて、生まれてはなくなり、生まれてはなくなり、その時その時でね。時代の変化と感情の変化。時代が静かになっていけば、応援も静かになるし、元気になっていけば、例えば、今日の試合(2014年最終節:優勝の懸った一戦)なんかもあれでいえばすごい激しい応援になっていくし、生き物みたいに。
Q.応援は選手にどのような影響を与えられると感じますか?
応援が与える影響っていうのは、直接的にはわかんないかもしれないけど、実はものすごいものすごくあるんだよ。
自分たちに置き換えてみると、すごく疲れた時に何万人もの人に「見てるぞ」っていうコール送られたら、「うわ、ヤベ」って思うじゃん。その「ヤベーな」が一歩につながっていくわけだから。やっぱり選手もそうだけど、人間1人1人体力じゃない。それを超える何かって、“人の後押し”なんだよね。
“人の後押し“があればある程、人間って頑張れる。応援の持つ力って、本当はもっと応援する側が知らなきゃいけない。
今のサポーターたちってさ、「選手が好きだ」とか、「アントラーズが好きだ」とかっていうことばっかりになっちゃってるけど、応援することがものすごい力になってること。一番肝心なそこを忘れてしまってるんだと思う。
みんなの想いを一つに
Q.プレーする側ではなく、サッカーを応援する立場である河津さんだからこそ知っていることはありますか?
昔はね、俺も選手と付き合いがあったんだ。今は、一線を退いてるから、あれだけど。俺がやっている頃には、選手たちとはそれなりに対等な付き合いをしていた。こっちが上ってわけでもないけど、向こうが上だってわけでもない。それは人間関係“1対1”だから、選手がこっち見たときに、「あー!選手選手!」って言ってれば、選手だってそう思っちゃうし。でもこっちが偉そうに「おう、頑張れよ!」なんて言う必要もない。「あ、頑張ってください」っていうちゃんとした“選手と応援する人の関係”っていうのを持ってないと、負けたときにブーイングも送れないし。その選手だけひいきするわけにもいかないし。だから、鹿島のサポーターたちは案外選手に対して、結構一線を守って付き合ってるのかなって思う。今でも。
Q.一体感のある応援を生み出す工夫はありますか?
工夫かー。今の応援と俺の応援の頃とはちょっと違うから、そこは何とも言えないかな。ただ、みんなの感情。コールリーダーっていう人がいるとしたら、そいつが自分のやりたいようにやるっていうのは絶対ダメで、みんなの感情を集めて、「みんな!この選手が待ってるんだ」とか、たぶん“みんなの声の代表”になんなきゃいけないんだよね。
でも、「この応援がかっこいいよ」とか、「こうやってやんなきゃダメだよ」とかっていうことをやってたら結局みんなバラバラになっちゃうよね。みんなの思いを本当に一つにしてるって思わないとダメなんじゃないかな。
サッカーもおもしろいけれど
応援はもっとおもしろい!
Q.「サッカーの可能性」とは?
サッカーってどうしたってその日本の中では、“プレーするサッカー”が面白いって伝えると思ってるけど、俺はまだサッカーっておもしろいスポーツだって思ってないんだよね。他のスポーツに比べてね。
サッカーってそのままじゃ、まったくつまんないからね。1点しか入んなかったり、0-0だったり。
ゲームだって、ものすごくわかりやすいようで、わかりにくいしね。ディフェンスが中盤にいたのになんで真ん中にいんの?とか。結局は固定してゾーンプレスじゃないわけだから。移動しちゃってるわけでしょ?
分かりづらいうえに、点数もはいんない。おもしろくないスポーツなわけよ。
でもそれを何倍も面白くするのって実は、応援だったりとかそれに付随してる付加価値にあったりするわけ。サポーターの声とか会場の雰囲気とかその後押し感があって、活きるからすごいおもいしろい。
他のスポーツみたいに個人競技とかになれば、個人の実力とか出ちゃうけど、サッカーって手ほど器用じゃない足で感情でぶつかっていけるからこそみんな周りが作り上げるものがもっともっとみんなでおもしろくする。俺が作ろうとしてるものはそういうもの。「応援がおもしろいんだ」と。サッカーもすげえおもしろいと思うけど、どうしても見ちゃう。あれはこうだ、あれはこうだって見ちゃうけど。いやいや、こうやって騒いだりとかして押し上げてあいつらを後押しして。そういうのがすげえおもしろいんだっていう風にやりたいんだよね。で、本当だったらそれに地域性も生まれて。
例えば、甲子園でもそうだけど、本当に自分の母校は一生懸命応援できるよ。サッカーでそれをもっと大きなものにしたのが“ホームアンドアウェー”。で、俺たちがやろうとしているのは「サッカーよりも応援のほうがおもしれえぞ」っていう、その付加価値をつけたほうがいいっていうことなんだよね。
サッカーにもっとおもしろいものはいっぱい加えられるんだよ。
やっぱり、やる側よりも見る側のほうがおもしろいっていうことが大事。そうしないと逆にプレーヤーも燃えないと思う。プレーヤーも頑張ってみる側にいいプレー与えたいって思うこと。うちらがやることより見ることって「こんなにおもしれえや」ってなることが相乗効果になっていくと思うんだよね。
河津亨さんありがとうございました。
WorldFut インタビュアー
渡辺大二郎、西山直哉
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